その街で一番の紳士であれ
SANGTAE(サンテ)/メッセンジャー歴17年

“辞めるのを止めた” 始まりの話
アパレル業界出身のサンテが、メッセンジャーの世界に興味を抱いたのは10代の頃。
「音楽でグランジというジャンルのバンドに傾倒していたんです。その中にファッションも音楽もカッコいい人がいて、そこからの影響で最初はアパレル業界に入りました。そのころに偶然、タワレコの洋書コーナーで見た『メッセンジャー・スタイル』というニューヨークのメッセンジャーの写真集があって。ジャンルはバラバラなんですけど、メッセンジャーたちの姿がグランジをまさに体現している職業に感じて、『メッセンジャーってカッコいいなぁ!』と思ったのが最初です」
東京から広島に拠点を移してジーンズ工場で服作りを学んでいたサンテは、『メッセンジャーのジーパンを作りたい』という想いから東京に戻ることを決意。そして東京のメッセンジャー会社に加入したのちに出会ったのが、メッセンジャーの世界大会『CMWC 2009 Tokyo』でした。
『CMWC』とは “Cycle Messenger World Championships” の略で、世界中のメッセンジャーが集まり、独自のレースやパーティーなどを実施するイベント。1993年にベルリンで初開催されて以来、メッセンジャーがいる世界の各都市で毎年行われています。サンテは2009年の『CMWC』のあと、「メッセンジャー会社は1年で辞めるつもりだった」と当時を振り返ります。
「東京大会の翌年に、グアテマラで開催された『CMWC』に出場したらメッセンジャー会社を辞めて、服作りの業界へ進むつもりでした。でも、グアテマラで世界中のメッセンジャーたちと触れ合って、自分もメッセンジャーとして一緒に走って、パーティーも体験して、『この世界はすごい! もっとメッセンジャーをやりたい』と思ったんです。そのころからメッセンジャーを継続する流れで今に至ります。その後もシカゴ、リガなどで開催された『CMWC』に参加しました」

CMWCが今、横浜に繋がる
世界中の仲間たちとの出会いをきっかけに、夢中になったメッセンジャーの世界。
特に『CMWC』では大きな感動を経験したとサンテは語ります。
「海外で出会ったメッセンジャーたちは、自由奔放でユニークな人ばかり。パーティーは全力で楽しみ、レースは超真剣。若いころの自分はそのギャップに刺激を受け、感動しました」
そんなサンテさんは、2023年に横浜を舞台に開催予定の『CMWC』に期待を膨らませます。
「クリオシティに入ったのは2020年。発起人のひとりとして『CMWC』の実行委員会には属してはいたのですが、2019年に横浜開催が決まって。その後のコロナ禍で社会情勢が変わってきたタイミングで、イベント運営に集中する意味でもクリオシティに入りました」
サンテは2022年11月に開催された『CMWC』の前哨戦『JCMC 2022 Yokohama』の実行委員長も担当。それらのイベントは単なる競技ではなく、メッセンジャーの魅力・文化を伝える場でもあり、サンテが経験したように、誰かにとっても人生の転機となるかもしれません。

メッセンジャーの美しい文化を守りたい
「メッセンジャーは美しい文化なんです。ただし危機感も感じていて。そのためには、社会貢献度の高い職業として認知される必要もあり、『CMWC』はそうした理由もあって開催します」
では、サンテが考えるメッセンジャーの「美しさ」、魅力とは?
「特に北欧が有名ですが、宅配・物流業界にカーゴバイクをはじめとする自転車を取り入れることは、脱炭素化やエコロジーな流れに向かうために必要な選択。例えば、みなとみらいなどの平坦でコンパクトな街をロールモデルとして、デリバリーの宅配・物流を自転車に変えるとか。そこから全国に広がっていけば、メッセンジャーも全国各地で増えるかもしれない。子供が最近生まれたこともあって、子供たちのために住み良い環境を残すためにはどうしたらいいのかもよく考えるようになりましたし、メッセンジャーたちが率先して発信する必要があります」
メッセンジャーが活躍する街と、環境に優しい街づくり。それらはメッセンジャー自身も、そうでない人にとっても、「地球環境を美しく変えていこう」という未来の選択に繋がります。
さらに、「メッセンジャーこそ、”その街で一番の紳士であれ”と常に思っています」と話すサンテ。街と密接に関わる、職業としてのメッセンジャーの姿勢を教えてくれました。
「メッセンジャーは道を譲ったり、歩行者に対してもケアをしたり、俯瞰して周囲を把握できる感覚を養う必要があります。なのでちゃんとルールを守ろうという意味もあるし、『メッセンジャーとして”本当のカッコ良さ”って何だろう?』みたいな。これに関してはいろいろな意見があると思うし、正解はひとつではない。それも含めてメッセンジャーの魅力だなって思います」
また、自身の心と体で業務を全うする、メッセンジャーならではの「美しさ」もあると言います。
「身体を動かして仕事をするっていうのが第一。長く続けていくほどアンチエイジングだし、体力も衰えない。そういう理由でも『続ける価値のある職業なんだよ』って思ってますね。クリオシティには50代のメッセンジャーもいますが、バリバリ走っているので若々しい。そんな肉体と精神を持っていることも美しさのひとつです。あと自転車で仕事することが純粋に気持ち良くて幸福感に繋がるし、自転車に乗って楽しいと思える人が増えればいいなと。メッセンジャーを続けている人の多くは、仕事を終えた日の達成感と心地良い疲れを知っていると思うし、いつものごはんがこんなにおいしく感じるのかっていう体験をしたことがあると思います」
最後にメッセンジャーの世界に興味がある人へ、サンテからのメッセージ。
「向き不向きはやってみないとわからないので、意気込み過ぎず、黙々と純粋に仕事を楽しむスタンスになれるかどうかが大切。まずはやってみないと。最初はきつくても、3ヵ月も経てば道も覚えて、体力もつく。だから始めたばかりのメッセンジャーは、1年後に表情、性格、見た目が変わるんです。新人が1年経ったときの変化を見るのは楽しみですよね」
メッセンジャーとして確かな誇りを持つサンテは、未来を想ってこれからも走り続けます。

Interview & Text:工藤 葵 Photo:西村 大輔